この本は、小説家の山崎洋子さんが、本牧を舞台とした傑作推理長編である。
「1921年の本牧を、これだけ描写した本は他にまれをみない。徹底的に調査したフィクションの本!」 フィクションなので、勝手に想像(谷崎さんを知ってる人は、誰でも思いますが)するには、谷崎潤一郎をモデルにした作品である。
この作品で、一番驚いたのは「谷崎潤一郎」を調べていたら「横浜秘色歌留多」がヒットした。作者を見るとなんと、「天使はブルースを歌う」の山崎洋子さんだったので舞い上がってしまった。山崎さんは、横浜を愛して数々の横浜関連の作品を残しており様々な時代背景を飛び回る。大ファンの私にとっては、驚きと嬉しさでいっぱいだ。
ざっと、既読者の感想を覗いてみると感動した感想が大半の中、「推理小説としては物足りない」との意見もあった。理由は、読み終えて理解できたが、この本は「谷崎潤一郎」の生涯を知って、また本牧を知っているかいないかで評価は、まったく違ってくると思う。フィクションであり、かなりノンフィクションのように文章の各所に、リアル的な事実を垣間見て「なるほど!」と感激するのだが、そこを気づかなければせっかく仕込まれている罠を踏めずに感動が薄れてしまう、マニアックな小説であり、最初からメジャー作品として書かれていないのかも知れない。逆を言えば、本牧マニアにはたまらない作品だった。
ミステリー小説なので詳細は、ネタばらしになり書けないけど、あらすじは、主人公の桃子が失踪した父親を探しているうちに、元町の映画会社や本牧のチャブ屋や隣の映画脚本家に行きつき、その近所のロシア亡命した貴族宅の家政婦となるが、大きな事件に巻き込まれていくストーリーである。
出だし位に、こんな文章がある。
「それは、大正十年の秋、横浜で起きた事件でした。・・・」「水の綺麗な海水浴場があり、チャブ屋ホテルと呼ばれる洋風娼館や、西洋人のサマーハウスが並ぶ・・・」「そこには、・・・文豪・・・ある作家が住んでおりました。」
もう、この読み出しの時点で私は、ノックアウトでした。更に、ストーリーが進むと、作家の隣のチャブ屋名は「VICTOR’S HOUSE」であり、その作家は映画作成の脚本家であり、妻の妹に恋をして映画の主演女優として出演させています。まあ、この辺は、こちらと見比べて下さい。
更に、興味があるのは、そのチャブ屋のマダムの着こなしです。
「ぴっちりとしたターバン型の帽子で髪を包み、その洋風な頭に反して、衣装は、揚羽蝶を描いた元禄袖の着物だった。黒い繻子の帯を男風に低い位置に締め、足にはなんと、これも黒い繻子のハイヒールをはいている。」
これは、本牧チャブ屋で有名だったお濱さんじゃないか?!時代と共に洋服を着始めている中、お濱さんは、ずっと着物を自分風に着こなしていた。この、マダムのモデルは、お濱さんかと想像してしまう。
私の想像では、本牧のチャブ屋隣で映画「本牧夜話」を作ってる谷崎潤一郎の生活を時代を超えて、お濱さん、を微妙に登場させたり、ロシア革命で本牧に亡命して来た貴族を登場させ、更にミステリアスな要素を振りまき、マニアックな仕掛けを用意した作品だと感じました。最後には、衝撃的な展開もあり最高に綿密に調査してリアリティーにも追及した、ノンフィクション寄りのフィクション小説です。
興味ある方は、谷崎潤一郎をググって下調べしてから、読んで仕掛けられた罠を踏んでみてはいかがでしょうか?
山崎洋子(1992) 『横浜秘色歌留多』 講談社
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